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夜の名残りが滲んだ明け方の曇り空。そこから今にも雪に変わりそうな冷たい雨が垂れている。
春が兆しを見せ始めた頃に降る冷たい雨だ。冷たい雨を切りながら、サイレンを唸らせ、覆面パト
カーが、せわしない早暁の道を急ぐ。
公園の東屋風の小屋の屋根の下で、一人の男がしきりに体を動かしていた。すり減って、垢じ
みた服で着ぶくれているのが、遠目からでもうかがいしれた。
…きっとホームレスが凍えた体を温めているのだろう、萩原慎太郎は、パトカーの窓越しに男を
見やり、そっと心の中でつぶやいた。今年厄年の萩原は、顔をしかめながら、思い出したかのよう
に腰に手をあてた。
「萩原さん、腰、大丈夫すか?」運転席の新島が声をかけた。
「あぁ〜、なんだな、年は取りたくないもんだなぁ。クシャミしただけでギクッとなったよ」照れ
たように笑いながら助手席の萩原は答えた。
「へ〜、ぎっくり腰ですね。クシャミくらいで、ぎっくり腰になるんですね」
「まったく・・・まいっちまうよ。これから本格的に花粉の季節だっていうのによぉ」
「ハハ、そうですね。整体とか行ったらどうですか?」
「え?整体?あんなもん効くのかよ?」
「あれはあれで、結構いいですよ」
「そんなもんかぁ」