萩原は、相棒の新島が話す言葉に時々相槌をうちながら、流れ去る窓外の景色に目を向けてい
た。閑静といえば聞こえはいいだろう。しかし、地方都市ならどこにでも広がっているような田
園地帯だ。そして、のどかな風景の一角にある屋敷が、今回の事件の現場だった。
萩原と新島は車を降り、顔なじみの警官らと挨拶を交わした。まっ白い手袋を手に、立ち入り
禁止の黄色いテープをくぐり、一人の警官に案内されて屋敷の裏手に回った。
「被害者は二人、この家の方です。高山彦三郎さん、77歳と、その妻良子さん、74歳。これ
は第一発見者である息子の高山真彦さんに確認済みです」歩きながら制服警官が萩原たちに伝え
た。
「ほう、息子さんが一緒に暮らしているのかい?」顔だけ警官の方に向け、歩みを止めずに萩原
は尋ねた。
「いいえ、市内のアパートに。一人暮らしです。『今朝方、電話をしたが、誰も電話に出なかっ
たので不審に思い、家に来てみると裏口のドアが開いており、中で二人が血を流して死んでいた』
とのことです」裏口から家の中に入りながら、警官は簡単に説明した。「あちらの男性です」
萩原と新島は居間のソファーでうなだれている男に近づいた。居間は物盗りが荒らした後の、
雑多な物で混乱をきわめている状態だった。
「息子さんですね?」萩原がソファーの男に声をかけた。
「・・・あ、はい、そうです」
「県警の萩原です」
「新島です」